流体力学チーム

概要

空気など流体の流れは非常に複雑な挙動を示します.これまでに実験や数値シミュレーションなどで膨大な研究が行われ,様々なことが明らかになってきました.一方,開発が進められている火星探査航空機が運用されるような非常に圧力が低い環境など特殊な条件,微粒子を含む流れや超音速の衝突噴流などや複雑な現象が生じる条件では明らかにすべき現象が多々あります.数値流体力学,実験流体力学,データ駆動科学流体力学を駆使して流体現象の解明に挑みます.

低レイノルズ数圧縮性流れに関する研究

火星航空機が運用されるのは気圧が地球の1/100以下の低圧環境です.そのため,地球で運用されている航空機周りとは流体現象が全く異なり,これまでに用いられてきた知見が適用できません.火星大気中では作動流体の密度が小さいためレイノルズ数が小さくなります.一方,気温が低く音速が小さいためマッハ数は高くなるため低レイノルズ数かつ高マッハ数の特殊な条件となります.流速を小さくすることで低レイノルズ数非圧縮性流れは風洞実験などにより研究が進められていますが,低レイノルズ数かつ高マッハ数の条件は通常の風洞では作り出すことができないため,知見が非常に限られています.そのため,数値シミュレーションと実験により流れの基礎特性を調べています.

1.低レイノルズ数圧縮性流れにおける乱流遷移の研究

低レイノルズ数の翼周り流れにおいては層流剥離泡や乱流遷移が空力特性を大きく左右しますが,これらに対しては圧縮性の効果も大きな影響を与えることが予想されています.現在は,スーパーコンピュータを用いたLarge-eddy simulationによって,鈍頭平板上に形成される層流剥離泡や乱流遷移の過程に対する圧縮性の効果を調べています.

2.低レイノルズ数圧縮性流れにおける物体周り流れの研究

火星探査航空機や高硬度無人機を設計するにあたっては,翼やその他様々な形状周りの低レイノルズ数圧縮性流れでの特性を理解しておく必要があります.翼や鈍頭物体(円柱や角柱などの非流線型物体)など基礎的な形状であっても低レイノルズ数圧縮性流れおける流れ場や空力特性は明らかになっていないことが多々あります.単体物体周り流れや2物体の流体力学的干渉など,流体機械の設計の基礎となる知見を数値シミュレーションや実験で一つ一つ明らかにしています.

3.低圧条件下での可視化計測手法の開発

低レイノルズ数圧縮性流れを実験で作り出すには低圧環境下で小さな模型で実験を行う必要があります.そのような場合は大気圧と比較して様々な制約が生じます.特に,作動流体の密度が低いため密度変動を光学的に可視化して流れ場を調べるシュリーレン法や感圧塗料の感度が低下します.そのため,計測データの信号雑音比が低く流体現象の把握が困難になります.そこで,モード分解を用いたデノイズ技術の開発や低圧条件でも高い感度を有する感圧塗料計測の実現に向けて研究を行っています.

低圧環境下における実験データに対するデノイズ技術の開発(2.8 kPaで取得したRe=3000, M=0.15, α=10 degの三角翼周り流れの時系列シュリーレン可視化画像)
10 kPaの空気中で2400 rpmで回転する平板回転翼面上の感圧塗料計測

圧縮性混相流に関する研究

身の回りの流れには気体や液体のみの流れだけでなく,固体粒子や液滴を含む混相流が様々な場所で見られます.流れ場中の微粒子は流れ場に乱れを投入したり,逆に静寂化させたりするなど流れ場全体の特性に大きな影響があり,粒子の影響を理解したり数値計算でその影響を正確に捉えられるモデルを構築することが必要です.航空宇宙分野では,例えばロケットエンジンの排気ジェットには固体燃料由来のアルミな粒子や射場で行う散水による液滴が含まれており,それらが超音速のジェットと干渉する圧縮性混相流です.また,燃焼器内では微粒化した燃料が高速流にさらされながら燃焼します.数値計算や実験により,高速混相流の粒子周り流れの研究を行ったり,混相流場の粒子解像計算を行うことで圧縮性混相流に関する知見を蓄積しています.

1.球周りの低レイノルズ数圧縮性流れの現象解明とモデル化

流れに含まれる粒子のサイズは直径が数マイクロから数百マイクロメートルと非常に小さい一方で,流れ場全体のスケールは数十あるいは数百メートルあります.そのため,粒子周りの流れを解像しつつ混相流場全体を特には莫大な計算リソースを必要とします.非圧縮性流れの場合は,理論や実験,数値計算により蓄積された膨大な球周り流れのデータを元に粒子の影響を記述した混相流モデルが構築されていますが,圧縮性流れの場合は球周り流れの知見自体が非常に限られているため,大規模な圧縮性混相流を解析するためにはモデルの構築に必要な球周り流れの基礎特性から明らかにする必要があります.これまでに,スーパーコンピュータを利用したNavier-Stokes方程式の直接数値計算や,弾道飛行装置による球の自由飛行試験,衝撃波管を用いた粒子と垂直衝撃波の干渉実験により,球周り流れの研究を行ってきました.数値計算では,レイノルズ数やマッハ数の影響だけでなく,粒子の回転や流れ場の速度勾配,粒子温度の影響などについても研究を行ってきています.

球周り流れの直接数値解析(Re=1000, M=0.8)
自由落下する球と垂直衝撃波の干渉現象のシュリーレン可視化
球周り流れの直接数値解析(Re=1000, M=1.2)
垂直衝撃波と干渉する自由落下する粒子クラスター周り流れのシュリーレン可視化

2.圧縮性固気混相流の直接数値解析

粒子の数密度が大きい場合は粒子間の流体力学的干渉や粒子が流体場に与える影響が無視できません.それらの効果を調べるために,複数粒子での数値計算や実験を行っています.現在は多数の粒子を考慮した大規模なシミュレーションに向けて準備を行っています.

3つの粒子と垂直衝撃波の干渉(埋め込み境界法による数値計算)
粒子群と垂直衝撃波の干渉現象の直接数値計算